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第23回企画展「三重の文房三宝」

2003年3月8日(日曜日)から4月10日(木曜日)
9時から19時(土曜日・日曜日・祝日 から17時)

県立図書館2階 文学コーナー

古来書斎における文房具の最も貴重な、筆・墨・硯・紙の4つを称して「文房四宝」という。文房とは、文人の書斎(製作場所)である。文人の定義は難しいが、元来は武人に対する語である。武人が軍事を担当し、文人は文事に携わった。文人の概念は、時代によって少しずつ変異していくが、文人と言われた人は、その時代における文化人であった。彼らが読書・執筆などに必要なすべての用具が、文房具である。そのうちもっともたいせつな筆・墨・硯・紙は、詩文をつくるのに欠くことができないものであるから、尊重して「文房四宝」といった。しかし現代のわが国では詩文をつくるのに、筆・墨・硯・紙を必要としない。書道の分野においてのみ、必要にして欠くことができないものとして、この文房四宝が存在するのである。

今回「文房四宝」の中で、現在三重県で生産されている墨・硯・紙について展示解説する。あえてこれらを三重の「文房三宝」と呼ぶことにする。

墨といえば奈良、まさか鈴鹿の白子で、日本画壇を支えた人達の墨が作られていた事実を知っている人は、少ないと思う。天覧の名墨といわれた「鈴鹿墨」そのすばらしさを知る人は少ない。中国を代表する硯・端渓硯と鈴鹿墨との相性を高く評価している硯の専門店の言葉を引用するならば、「石のことは石に聞け、硯の善し悪しは、墨をすってみればわかる。」この墨に「鈴鹿墨」を指名して評価しているのである。墨のすばらしさを引き出すのは硯で、硯の善し悪しを計るのは墨である。どんなにすばらしい墨でも硯によって、どんなにすばらしい硯でも墨によって、墨色の善し悪しが決定されるのである。もちろん紙によっても墨色の出方が変化するのである。つまり、硯・墨・紙の組み合わせによって物理的にも化学的にも変化していくのである・この組み合わせに、どんな筆をつかって書くのか、さらに書く人の技術や人格にも墨色の変化が左右されるのであるから複雑なのである。

文房四宝の中でもっとも選び方が難しいのが硯であるが、墨との相性によって良否が決定されることがある。「那智黒硯」は、那智山の参拝客の土産物として売り出されたが、この硯材は実は三重県熊野市神川町神上の「神渓石」あるいは「神上石」なのである。紛れもなく三重県産であり、ブランド名が那智黒硯なのである。那智黒の名で全国的に有名になったので、今さら変更すべきでないとされるが、個人的には「神渓硯」あるいは「神上硯」として、書道界に硯として再評価されて良い硯材である。さらに那智黒石についての重大な誤った記述についても、この冊子で考証されている。

紙については、伊勢神宮の御札や神宮関係の和紙が、どのように調達されているかという素朴な疑問より調査を開始した。紙は森からでてきた白い妖精である。しなやかで強い和紙は、「伊勢紙」「深野紙」として現在も製造されている。

今回の展示は、本年度地域資料コーナー入口の展示ケースに、地域ミニ展示として、第33回 三重県指定伝統工芸品 伊勢紙 深野紙 4月2日 から 8月4日、第34回 三重県指定伝統工芸品 那智黒石 8月6日 から 12月1日、第35回 国指定伝統工芸品 鈴鹿墨 12月3日 から 2月27日、以上3回にわたるミニ展示の総集編として現物資料を追加・拡大展示して図書館2階の文学コーナーで実施することとなった。この展示をきっかけとして、県内の硯・墨・紙に関する理解と支援が深まれば、幸いである。